赤ちゃん歯科・口腔機能育成

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乳幼児と小児の口腔機能育成

このページでは、乳幼児から小児期にかけての口腔機能と健康との関りについて述べています。

【ご注意願います】2024年8月現在の情報をもとにまとめていますが、この分野はまだ研究段階の内容も含まれており、必ずしも正確ではない可能性がありますので、参考にしていただくのは良いかと思いますが、自己判断せず、気になることがあれば必ず専門の先生に意見を仰いでください。現時点では賛否ある方法も載せておりますので、お子さまの事でお困りの場合は、本ページだけでなく色々な情報を参考にしてくださいませ。

正常な口腔機能について

はじめに

そもそも口腔機能とはなんでしょうか?? 明確な定義がないのですが、一般的には、口腔(こうくう:いわゆる口のこと)で行われる機能的な多くのことを指します。ざっと挙げるだけでも、発音:しゃべる、咀嚼:食べる、嚥下:飲み込む、感覚:味覚や触覚、消化:唾液の消化酵素(アミラーゼ)による初期消化、免疫:唾液の抗菌物質(ラクトフェリンや分泌型IgAなど)による細菌や異物の排除、などがあります。

もう少し広義で考えると、呼吸(口呼吸、鼻呼吸)、表情・感情の表現、さらにはYes/No程度の簡単なコミュニケーションもとることができます。このような口腔機能が正常に働いているのが望ましいのですが、近年「口腔機能発達不全症」という、正常に機能できていない子供らが多くなっています。

呼吸の違い

近年多くの問題を抱える1つ「呼吸」にフォーカスして考えます。

「呼吸」は生命維持に最も重要な機能ですが、本来呼吸をするのは「鼻」であって、習慣的に「口」で呼吸してはいけません。これは生まれ落ちた瞬間から生涯を通して、とても基本的で重要な、根底の考え方になりますので、まず「鼻で呼吸」と覚えてください。もちろん激しい運動の後は口で呼吸することになりますが、普段の呼吸は鼻で呼吸をするのが自然で正しい呼吸の仕方です。

ところが、近年自然環境の変化や生活様式の変化に伴い、鼻で息をすることが難しい(≒季節性鼻炎や通年性アレルギーを持っている)人がとても多くなっています。たとえ鼻で呼吸することが大事であると分かっていても、仕方なく口で呼吸をしてしまうケースもあります。(かくいう私も花粉症持ちですから、春先に鼻で息をするなんてことは苦行そのものです)

「呼吸ができない=死に直結」ですので、呼吸は何よりも優先される本能と言えます。

また、習慣的に口呼吸になってしまうと、様々な変化が起こります。ひとつは「口腔乾燥」です。

最近「子供の口が臭い。」と訴えられる親御さんが多いのですが、口呼吸の子供は口の中が乾燥してしまい、本来は唾液が守ってくれている歯や歯茎、舌や粘膜に細菌が繁殖しやすくなるため、虫歯が多発したり、プラーク汚れが増えやすくなります。また、乾燥に弱いリンパ組織の口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺)やアデノイド(咽頭扁桃)が腫れたり化膿したりすることで、悪臭が発生しやすくなってしまいます。

さらに、習慣性の口呼吸で顔の見た目にも変化が起きることがあります。「アデノイド顔貌」と呼ばれる顔つきになりやすいと言われています。アデノイド顔貌と検索すると詳しく出てきますが、簡単に特徴を捉えると、目の周りにはクマが多く、鼻が低く、面長で顎がない横顔、といえます。

習慣性の口呼吸で最も気付きにくいものが、睡眠時呼吸障害だと思われます。子供が「いびき」をかいていたら要注意です。睡眠時間は長くとれていても、しっかりとした睡眠ができていないおそれがあります。詳細は下記をご覧ください。

口腔機能発達不全症

色々役割がある口腔ですが、放っておいて勝手に口腔機能が発達するわけではなく、正しい発育過程があります。(一昔前までは、放っておいてもある程度問題なく発達していました)逆を言いますと、正しい発育過程を経ない子供が近年とても多く、2018年からは「口腔機能発達不全症」という『病名』が新たに設けられています。つまり口腔機能が正しく発達していない子供は、病的な状態であるということです。下記パンフレットは日本口育協会の「口腔機能発達不全症」に関するパンフレットです。

※許可を得て掲載しております。無断転用はご遠慮くださいませ。

口腔機能発達不全症パンフレット

根源的な「舌」

では何をもって正しい口腔機能の発達がなされているか、といいますと、全ての口腔機能の発達に大きく関係している『舌』が正常に機能するかどうか、であると考えられています。舌は最も原始的な器官のひとつで、口腔機能の発達に関してもとても大事な根源的な器官です。やや専門的な話になりますが、舌の原型は、胎生8週頃から形成されはじめ、13週頃から吸啜反射などの反射神経が発達していきます。胎内で自分の指をくわえている画像がありますが、出産後すぐ哺乳できるように、胎内で長い時間をかけて訓練をしているのです。

(A Child is Bornより引用)

出産直後までは(先天性の病気を除き)どの赤ちゃんもほぼ同じ機能を獲得しているはずですが、その後の哺乳の仕方、抱っこの仕方、離乳の仕方など、養育者と赤ちゃんとの関わり方によって、口腔機能発達に影響が出てくることが分かってきました。特に早産の赤ちゃんでは、胎内で十分な訓練ができないまま産まれてくると考えられますので、本来の正しい成長発達を知っておくことが、その後の機能獲得の助けになると思われます。

世の中には数多くの育児方法があります。堅苦しい育児専門書から○○クラブのような育児情報雑誌まで、さらに近年はインターネットを介して実に様々な育児に関する情報を得ることができます。まさに情報にあふれておりますが、残念ながら玉石入り混じった状態ですので、意図せずに間違った情報を信じてしまうこともあるようです。なるべく間違わないように、少しでもわかりやすく正しい情報を皆さまに届けられるように、このページの情報は度々更新しております。大切なお子さまが(なるべく乳幼児の時期に)身体的・心身的に正しく発育できる手助けができれば幸いです^^

 

口育とは:口腔機能育成と歯列矯正に関して

日本口育協会のHP(リンクが別ページで開きます)によりますと、「『口育』は、人生の始まりから終わりまで、人間らしい生活を生涯にわたって営むための機能予防管理術です」とあります。その考え方は、乳幼児期から正しい口腔機能を成長発達させることで、不正な顎顔面の発育を予防し、正常で健康な心身の発達を目指す、と言えます。我々は、正しくない口腔機能が、顎の狭小化低位舌を招き、歯並びの不正や、睡眠時の低呼吸や無呼吸など睡眠呼吸障害を引き起こすと考えています。特に脳の発育にとても重要な時期に睡眠呼吸障害によって酸素が十分に取り込めないと、ADHD(注意欠如多動性障害)と同じような脳の構造的な変化が起こることが、メリーランド大学医学部の研究で分かりました。(http://dx.doi.org/10.1038/s41467-021-22534-0 研究論文の原文です)要約の一部を抜粋しますと、

「定期的に(週に3回以上)いびきをかく子どもは、脳の前頭葉のいくつかの領域で灰白質が薄くなっている可能性が高いことがわかりました。これらの領域は、高度な推論能力や衝動制御を司る脳の領域です。これらの領域の灰白質の薄さは、集中力の欠如学習障害衝動的な行動などの行動障害と相関していました。これらの行動障害は睡眠呼吸障害と関係があり、一晩中いびきをかくことで睡眠と呼吸が妨げられ、脳への酸素供給が減少するのです。睡眠呼吸障害のなかで深刻なものは、睡眠時無呼吸と呼ばれます。」(一部抜粋)

このように、睡眠呼吸障害と行動障害が関係しており、口腔機能の発育不全が睡眠呼吸障害の原因のひとつとして挙げられることから、小児の口腔機能を正しく発育させることが、その後の人生に大きな影響を及ぼすと考えられます。

当院では、日本口育協会認定の口育士の資格を持つ歯科医師が、乳幼児の段階から口腔機能の正しい発育のための指導やアドバイスを行うことができます。また、最も多く見受けられる呼吸機能障害である口呼吸の患者さんに対応するべく、あいうべ体操で有名な今井一彰先生主催のあいうべ協会認定の息育指導士として、あいうべ体操の普及にも努めています。

一般的に、乳幼児の時期には積極的に歯を動かす歯列矯正は行いません。あくまで機能的に正しい発育が行われるように、養育者の皆さんに情報を提供し、お子さんが可能であれば、口腔機能育成の指導や体操を行うことで、悪い方向性を是正することがメインになります。ご家庭での育児・保育に関わることを聞いたり、口出しすることもあります。ある程度プライベートな領域に干渉しなければ、大きな変化は難しいと考えているからです。

 

小児の機能矯正(筋機能療法)について

機能矯正(筋機能療法:MFT)とは?

口腔機能の発達を妨げる「口呼吸」の原因を取り除き、「低位舌」の改善と、「正しい嚥下機能」の獲得、この3つを目指して行う、主にエクササイズ(筋機能療法)と簡単な装置(アプライアンス)を利用した矯正方法のことです。

すでに習慣となっている口呼吸を改善するには、シンプルなエクササイズを毎日行うのですが、継続が難しく忍耐が必要になります。あいうべ体操は最も基本的なエクササイズで、毎日行うラジオ体操のようなものです。毎日忘れずに行うことで、効果が表れてくるものであり、歯科医院に通った時だけ頑張ってエクササイズをしても、効果は薄いので注意が必要です。ご家庭でうまく取り組めるかどうかは、保護者の方の理解と協力が不可欠となります。

また、アプライアンスの使用は、装置の種類やお子さんの年齢にもよりますが、昼間に1時間程度軽いエクササイズをしながら装着してもらい、可能であれば装着したまま就寝してもらいます。就寝時の使用は、口呼吸がある程度改善している段階でないとあまり意味がありませんので、まずは昼間の1時間を目指します。

装置(アプライアンス)について

滝歯科医院では低年齢児の機能矯正には、Myobrace®(マイオブレース®)、チューイングブラシ®(マイオマンチー®)、Vキッズ®などを使用します。それぞれお子さんの問題点や発達段階に合ったものを使用します。しかし漫然とアプライアンスを使えば良いわけではなく、自然な鼻呼吸の獲得を目指し、エクササイズで舌の位置の是正や嚥下の仕方を学んだり、さらには食事のアドバイスなども行います。

 

※濃い青色がT4K、ブツブツがついているの青色がMyobrace K1

アプライアンスは患者さんに購入していただき、月に1~4回程度、経過観察とエクササイズを行います。デンタル・ジムや歯科塾などといった呼称も最近では聞かれるようになりましたが、モチベーション維持のためにも、塾のように歯科医院に通ってもらうのが理想ですが、当院では小児用トレーニングルームがありませんし、エクササイズを行う担当者(歯科衛生士や機能療法士など)がおりませんので、機能矯正の指導のみ行って

ここがとても重要なことですが、機能矯正は「ご自宅での取り組み」如何によって、良い変化が目に見えて分かるケースもあれば、反対にほとんど変わらないといったケースもあります。アプライアンスはあくまで道具であって、使い方によって結果が異なります。使うだけで全員に同じような効果があるわけではありませんので注意が必要です。達成したい結果相応の努力と忍耐が要ると考えて取り組んでください。

機能矯正で難しい場合は、顎顔面矯正を提案することもあります。歯列矯正とは異なりますので、以下ご参照ください。

顎顔面矯正とは

歯列矯正は、歯並びを整えるもので、顎顔面矯正は顎の拡大を行うことで歯列が整いやすくなる、とてもダイナミックな治療方法です。詳細は専門的すぎるので割愛しますが、急速拡大装置(RME : Rapid-Maxillary-Expansion)を使用して、上顎の顎の骨を左右に大きく拡大させます。上の前歯が隙間が開くくらい拡大します。

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※左は拡大初日。真ん中は拡大を始めて2週間後。右は拡大終了して保定している状態。拡大に伴い前歯が開いて、保定をしていると自然に前歯が閉じていくのが分かる。

見た目の変化が相当大きいため、説明をして納得の上で治療を受けているご両親でも驚かれることが多いです。自然に閉じますが、ガタつきが残っている場合は外側からワイヤーを使った通常の歯列矯正を行います。

このように、乳幼児から小児期にかけて行うことはそれぞれのステージ毎で異なります。詳しくは担当医にご相談ください^^